天才の生れと育ち--呉清源の育成について

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1、【天才の生れと育ち】--呉清源の育成について要旨呉清源は『碁は完璧な調和である』を提唱し、『昭和最強棋士』と称えられる。１９１４（大正３）年中国に生まれ、14歳の時囲碁留学するために渡日した呉清源は、戦前から戦後にかけ、向かうところ敵なしの強さを誇り、囲碁の世界に革命的な戦術転換を迫った『新布石』の考案に携わった。彼は囲碁界に新風を吹き込み、今まで棋士として囲碁一筋に生きてきた。ある調査によると、古い昔から一芸に秀でた隣国人が、日本に渡来して尊ばれた例は少なかった。今もそのみごとな例が呉清源である。彼は囲碁界に巨きな足跡を印した。私から見ると、呉清源は昭和最強棋士となるのは、彼の『生

2、れ付きの才能』と『育てる環境』という二つの要素が肝要な作用をしているからだ。キ一ワ一ド：生れ付きの才能、育てる環境、囲碁、育成天才の生れと育ち--呉清源の育成について　　　　はじめに呉清源は、大正三年五月十九日（中華民国3年旧暦5月19日）中国福建省に生まれた。囲碁好きの父の影響を受け、少年の頃から北京の囲碁界で頭角を現す。昭和三年渡日し、瀬越憲作に入門し、三段を許された。昭和八年木谷実と新布石を発表して、同年日本選手権戦に優勝し、本因坊秀哉名人との記念対局で三三?星?天元の布石で話題を集めた。昭和十四年、木谷実と打ち込み十番碁を開始、六勝四敗で木谷を先相先に打ち込んだ。以後、読売新

3、聞専属棋士として雁金準一、藤沢庫之助、橋本宇太郎、岩本薫、坂田栄男、高川格をことごとく先相先ないしは定先に打ち込み、四半世紀にわたり碁界の覇者、十番碁の王として君臨した。この間に打ち出した新手や新機軸は数知れず、速度と実利を重視する手法は現代碁の基礎を築いた。今頃、異国文化と政治で、この天才棋聖にめぐって、人々からの意見も各々違う。天才の種である以上、どこへ行っても出世できるとか、日本修業なんか行かなくてもいいとか、そういう考えを持ている人達は少なくない。それに、『中国人として、やはり中国人らしい囲碁をやってほしい』と言いながら、無闇に呉清源のことを親日派と誤解する学者もかなりいるよ

4、うだ。逆に、呉清源のことをよく分かることもせず、みだめで彼の今までの成功は、全部渡日以来のお蔭だと思う人もたくさんいる。実は、人間の成功がその内部と外部の要素に左右されているのだ。生れつきの才能を持った以上、その成長によい環境も加えたからこそ、呉清源の今日のような業績をあげられるのだと思う。本論では、この二つの要素について検討してみたいと思う。１　中国で生れ付きの才能1.1囲碁古国囲碁は中国に起源を持ち、四大芸術の一つとして伝えてきた。囲碁の起源は占星術の一法が変化?洗練されて今の形となったと言われている。その後だんだん勝負事に変わり、唐の時から盛んになった。北宋代に編纂された『忘憂

5、清楽集』と言う書物は現存する中で最古の棋書である。清の乾隆時代に至って、囲碁は一番盛んとなった。『一番最初森が見付かったところでは、必ず最大の森が生えている』という諺の通り、こういう四千年囲碁文化を持つ大国には、黄月天、施定蕃、範西屏、周小松などの名手は飛び抜けて強かったのだ。昔伝わってきた碁経に記載された対局棋譜から見ると、当時の中国棋士は世界におけるかなり強い実力を持つことが分かる。特に、元の時代に出版した《玄玄碁経》という碁経は、その後海外でも発行され、外国碁経に多く取られている。たとえ人間の源は海だとすれば、囲碁の源は中国に違いない。　「この《玄玄碁経》ほどのものが生まれたこ

6、とから見ても、当時、立派な打ち手がいたと分かります。」「さて、その乾隆盛時の名手は、日本の何段ぐらいの力があったか。『大したものです、名人級でしょう。』と、呉さんは答えた。」[1]呉清源は中国人として、空前な棋才であることが分かっているが、碁の天才の伝統のない国に、空前の出現をしたのではない。千年前にも、中国の碁の知恵は発光したことがあった。だからといって、歴史環境に恵まれている中国は、囲碁天才の種を育んでいるというべきである。1.2囲碁家族普通は人間が生れてきてから、その家族環境から影響を受け、将来人生の歩む道を選ぶわけだ。呉清源は7才の時初めて父より囲碁の手ほどきを受けてから、潜

7、在能力が掘り起こされた。大人との対局も勝ち続けた彼は囲碁の神童と呼ばれ、そのうち名実ともに北京棋士の第一人者となった。家族メンバ一のところから見ると、彼の祖父、伯父、父親などが普段囲碁に深い興味があり、兄弟達も棋道を解し、暇があれば盤に向かって石を下ろす。呉清源の家糸には棋に親しむ者が多かった。「父の碁は、『初段に二目ぐらいだったと思います。』と、浣氏は言い、『日本棋院の二級位の実力を持っていた。』と、呉さんは言うから、兄弟の見る所は、だいたい一致している